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秋の音色、バンドネオン
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     映画「イル・ポスティーノ」は、私の好きな映画ベストのひとつです。

     1950年代、チリのノーベル賞詩人パプロ・ネルーダが、祖国の弾圧を逃れイタリア、ナポリ湾の小島に身を寄せた史実を脚色したストーリーです。

     マッシモ・トロイージ演ずる島の青年マリオは漁師をつぐのを嫌がり、山の上に寄宿したネルーダに世界中から届く郵便物を配達することを引き受けます。内気で不器用だが誠実なマリオはネルーダに気に入られ、親子ほどの年の差を超えて友人として文学を教わり詩に目覚めます。島に一軒しかないバルの娘ベアトリーチェにぞっこんのマリオは、自作の賛歌を朗読することで、この美女の愛を得るのです。

     逮捕状のとけたネルーダは、半年ほどでチリに帰国。数年後島のバルを再訪したネルーダは5歳になるマリオの一人形見に会います。マリオは参加したデモの暴動で亡くなっていたのです。ネルーダは海辺で一人涙ぐむのでした。

     文学や詩というものは生活に役に立たないとされながら実は、人生の道筋を決定づける実学なのだということが、この映画のメッセージではないでしょうか。

     主演で、脚本にも関わったマッシモ・トロイージはこの映画の撮影完了直後に41歳で亡くなりました。心臓の持病をかかえながら自転車で山に駆け上がる撮影に望んだのです。映画は主演脚本でアカデミー賞を受賞、トロイージの代表作になりました。

      アカデミー音楽賞を受賞したサントラは、ルイス・バカロフというアルゼンチン出身、イタリアで活躍した大御所です。バンドネオンを主旋律にした哀愁あふれる音楽で胸にしみます。

     

     

     話は変わります。先日「イル・ポスティーノ」のテーマ曲のバンドネオン独奏生演奏を目の前で聞いてきました。私の友人、大久保かおりさんのソロライブが東村山であったのです。演奏はすばらしかったけど残念だったのは、映画の説明がちょっと的外れだったのと、私がビデオを貸してこの映画を紹介したことを、彼女はすっかり忘れているらしいことです。

     大久保かおりさんは不思議な人です。年齢も時に性別も不詳。初めて会ったのは10年ほど前、小金井のレストランでライターの松井一恵さんの出版記念会に呼ばれた時です。小金井駅を降りると、極ショートカットで細身やや丈短の黒ズボンに黒いシャツ、黒い大きなカバンを下げて前を歩く人がずっと同じ方向に向かうと思いきや会場に入っていくのでびっくり。何をやる人なんだと思っていると、バンドネオンの生演奏が始まるので、なおびっくり。初めてのバンドネオンの音質にすっかり魅了されました。もちろん私より年下ですが、尊敬と親しみを込めて「かおのあねさん」と呼ばせていただいています。

      バンドネオンという楽器は、19世紀に発明され西欧で広く使われているコンサルティーナをもとに約20年後にドイツのバンドさんが発明しました。左右の操作盤の間の蛇腹を開閉して、リードに空気を送って音を出す構造です。アコーディオンはコンサルティーナをより演奏しやすく、まったく別方向に発展させた楽器ですが、バンドネオンはより音域を広く大音量がでるよう、独奏楽器としてガラパゴス的に発展させたものです。左右で90個近いボタンは配列になんの法則性もなく、蛇腹の押し引きで音階がちがうため、ボタン配列を覚えるだけで「神経衰弱を4回完璧にこなすような」(大久保さん談)悪魔の楽器といわれるくらい演奏の難しい楽器だそうです。バンドさんは発明まもなく亡くなってしまい開発の真意は不明ながら、誰にも弾けない楽器を作りたかったのではといううわさもあります。

     その後海を渡ってアルゼンチンタンゴで、スタッカート演奏ができる楽器として使われていましたが、天才アストル・ピアソラの登場でタンゴ以外の音楽ジャンルにバンドネオンが一気に広がったのです。

     大久保さんの演奏を間近で見ていると、音質が暖かく哀しげで、せわしなく蛇腹を閉じて、その時の空気抜きのシュッという音が声楽の息継ぎのようでとても人間的な感じを与えます。奏者でちがうけど、圧縮する音のほうがくぐもって抑圧的、引く音は伸びがあるそうで蛇腹を開いて演奏することが多いらしい。大久保さんはアストル・ピアソラ同様、バンドネオンの新しい可能性をずっと追求しています。

     最近、あねさんがJCOMの番組でインタビューを受けました。ぜひ、ご覧になってください。

     

    https://www.youtube.com/watch?v=t3yj_nC7NrM

     

    文責・藤本邦彦

     

     

     

     

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