ルドンと、片山健
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      絵を見ることのなかった二十代の私に、衝撃を与え、見ることへの関心に差し向けた画家がオディロン・ルドンです。ルドンは、19世紀末のフランスの画家です。「ルドンー秘密の花園」展に行きました。東京の「三菱一号館美術館」、5月20日で残念ながら、会期終了です。

     

      ルドンは、木炭やリトグラフの白黒の世界、かなり異様な初期の絵が有名です。たとえば「沼の花」。夜の沼に一輪咲いた、ホウチャクソウのような、悲しげなおぢさんの顔の花が、静かに輝いている絵は、特に知られています。美術に教養のなかった私に、興味を持たせた絵です。

     

       色彩を、きらきらとした光におきかえて表現した印象派絵画全盛の時代に、ずっと黒だけで描き続けていたのが、ルドンです。しかしながら、黒で描くということは、光と影の観察力と、比類なきデッサン力が必要です。「黒は最も本質的な色だ。精神のための働き手なのだ」 ルドンは、モノクロ画を長く修練してから、パステル画や油絵を多く発表し始めます。その発色の美しいこと。

     

     

     

      モノクロの世界から、色彩へ転身した絵本作家がいます。片山健さんです。若いころは、精緻なデッサンの細密な鉛筆画をずっとやってこられ、長男の誕生に、ありあまるパワーを感じて油絵で描き下ろした絵本「どんどん どんどん」で、一気に色の世界に転身しました。それから、油彩、水彩で数々の名作を発表しておられる、わたしの一番好きな作家です。片山さんの描く、生き物、植物のなんと生き生きとしたことか!

    「やまのかいしゃ」「たんげくん」「えんそく」など、大好きです。片山さんは、一度あった人は、絶対忘れないとおっしゃっていました。優れた画家の資質は、形の細部の記憶力なんだなと、納得したことがあります。

     

        『ルドン 私自身に』いう自伝で、こうも語ります。「暗示の芸術は、ものが夢に向かって光を放ち思想がまたそこに向かうようなものです。退廃と呼ばれようが、呼ばれまいが、そういうものです。むしろ我々の生の最高の飛翔に向かって成長し、進化する芸術、生を拡大し、その最高の支点となること、必然的な感情の高揚によって精神を支持するのが、暗示の芸術です」 これは、象徴主義といわれる流れです。ギリシャ神話の世界などを題材に、「暗示」を圧倒的なリアリティで、空想世界を精緻に、象徴的に描いた画家たちが、象徴主義の作家たちです。コンスタン・モンタルドの「天国の庭」、ポール・デルヴォーの街路樹など、巨樹に象徴的な意味を持たせて描いた画家が多くいました。

     

      ルドンは、二十歳前にアルマン・クラヴォーという植物学者と出会い、多大な影響を受けたとされます。今回の展示は「植物と装飾」という副題がついていて、人物画の傍らに立つ巨樹、華やかな花、蝶、モノクロの半分植物のような奇怪な生き物などの作品を系統的に展示しています。

    メインは三菱美術館が買い取った「グラン・ブーケ」です。2.5×1.7メーターの大画面に、青の花瓶が据えられて、零れ落ちんばかりに花々が盛られた絵です。キク科、ケシ科と思われる花は、現実になさそうな色と形。そのわきには、金色の葉の巨樹が。巨樹は信仰の対象になるくらい、精神的な支えであり、植物は、根源的な生命力を感じさせるものです。

      

      絵に描かれた植物が何で、何を暗示するものなのか、商売柄、とても気になります。

     

     

    文責・藤本邦彦

     

    | 美術 | 21:28 | comments(0) | - |
    妖怪が好き!!
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       物心ついたころから、私は妖怪が好きでした・・・ってえのは、大げさですね。思春期頃からでしょうかね。それにしても、ずいぶんとたちました。今回、江戸東京博物館で「大妖怪展」をやっているってんで、はせ参じたしだいです。

       そもそも妖怪という概念は、かなり古くからあったみたいです。なんとなく説明できない怪異、自然現象を手っ取り早く理解するには、妖怪の出現を待つしかなかったのです。縄文時代の「みみずく土偶」が具象の一歩ではないかというのが、今回の展覧会の主張です。

       妖怪が日本に広まったのは、平安時代の仏教伝来のあとです。八百万に、あらゆるところにいた日本の神々は居場所をなくして、仏法の神々にその座を明け渡さざるを得なかった。神の座を降りた、地域の神様や、森や石や海や大木や、古くからある道具や、品物、あらゆるものは聖性を奪われて、得体のしれない普通ではないものに降格されて生きなくてはならなかったのです。これらが妖怪になったのではないかと思います。さらにそれらは、浄土宗の強調した地獄のイメージと収斂して、より具体的な形を持っていったと、いうのが私見です。

       ぜひ見たかったのが、16世紀の真珠庵本「百鬼夜行絵巻」です。これはまさに、妖怪絵のバイブル。すべてはここから始まっています。これを模写、発展したものが、後世に続々と出ていくのです。

       

       

      とりわけ印象深かったのは「針聞書(はりききがき)」という鍼灸医向けの江戸時時代の医学書です。体のなかに病気を引き起こす妖怪がいるので、こいつを針で一突きできれば、病人は本復するとされたのです。この絵が、妖怪と言うより珍種の虫のようで、なかなか楽しいのです。たとえば上の写真は「大酒の虫」。酒を飲みすぎて死んだ人の腹中にいる。赤土の塊があるので砕いてみると、亀のような虫が出て来るってなことが書いてあります。
       その夜は、落語定席、鈴本演芸場に回ったのです。お盆特別興行で「さん喬、権太郎競演」です。権太郎師匠のネタが、奇しくも「せんき(疝気)の虫」で、大爆笑でした。
       「せんき」とは中年男性が、腹から腰にかけて激痛に見舞われる病気で「せんきの虫」が人の腹のなかで起こすとされた。ある医者が、偶然「せんきの虫」を捕まえて詰問してみると、「せんきの虫」はそばが大好物。腹の中にそばが落ちてきたら元気100倍。そば宴会で人の腹をあちこち引っ張ったり蹴ったりして大暴れするので、寄主は痛くて転げまわる。しかし、唐辛子だけは苦手で、これがつくと腐って死んでしまう。そこで薬味の唐辛子が来たら「別荘」に逃げ込むという。「別荘」というのは、男性のふぐり、「金のたまふくろ」だそう・・・
       これはしたりと膝をうった医者は、さっそく患者である旦那の鼻の前で、奥さんにそばを食べさせ、匂いでせんきの虫どもを、奥さんの腹の中におびき寄せた。「せんきの虫」たちは、大好物を前に大喜びで、暴れまわるので、こんどは奥さんが腹痛でころげまわる始末。「いまだっ!」と医者の合図で、唐辛子水を一気飲みする奥さん。

      あせったのは「せんきの虫」ども。

      「うわーっ、唐辛子水だ〜。別荘ににげろ〜」といったものの・・・

      軽いバレ噺で、私の大好きな一席です。これこそが落語ではないかと、私は思います。

      しかもどうやら、「せんきの虫」も妖怪の一種だったんですね。

       

      古今亭志ん生師匠の名演「疝気の虫」をぜひ、聴いてみてください。

       

      https://www.youtube.com/watch?v=tiK3P1L-SRM

       

      文責・藤本邦彦

      | 美術 | 23:40 | comments(0) | - |
      たむらしげる展 トムズボックス
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         さっき気がついたのですが、もう11月に入っているのですね!!
        つい、数日前に「あけましておめでとう」なんて言っていたような気がします。こんなていたらくですので、歳を取るのが早いのですね・・・
         11月は30日まで、トムズボックスの企画展、「たむらしげる展」が始まっていました。早くいかなくては。こんど気が付いたら年があけているかもしれない。
         
         「たむらしげる」さんは、イラストレーター、絵本作家、映像作家、マンガ家と多才です。膨大な作品を手掛けられていて、どなたでもたぶん一度は見たことがある絵なのではないでしょうか。SF的で、とても分かりやすく、ユーモアたっぷりで、小宇宙のような世界観がきちんと構築されていて、それぞれのキャラクターがしかるべく位置付けられているのです。作家にとって、一番大事なことは、想像力だと思います。たむらさんご本人は、とてもほっそりした方なのに、想像力の筋力は、とてつもなくたくましい。
        今回の展示は、昔の作品に、彩色したり書き足したり、かえって手間がかかったと、ご本人の弁です。写真は、うちにある、たむら作品のほんの一部です。




         トムズボックスは武蔵野市吉祥寺本町2-14-7 電話0422-23-0868 絵本編集の重鎮、土井章史氏のやっている、とってもいい店です。先日、現場がすぐ近くだったので、昼休みに寄ってみたけれど、「木曜日は定休日だよ〜ん」と、土井氏に拒否られてしまいました。木曜はだめです。12時から20時までやってます。
         ところが、今年いっぱいでトムズボックスは、閉めてしまうのです。残念!大好きな三鷹の「りとる」も閉めちゃったし。多摩地区の絵本専門店のリアル店舗は、東村山の「トロル」くらいになっちまいます。
         トムズボックスの最後の展示は「長新太」さんです。ナンセンスマンガ、ナンセンス絵本の天才作家。残念ながら、2005年に逝去されました。落語の王道は、人情噺なんかではない。爆笑できる滑稽噺こそが落語の本質なのです。同様に、絵本におけるナンセンス感覚は、とっても大切です。ナンセンスこそが、こどもの知性と自由、反骨を養うものなのです。
         長さんの絵本で、わたしの大好きなのは「ごろごろにゃーん」です。
         
        文責・藤本邦彦





         
        | 美術 | 23:19 | comments(0) | - |
        「鳥獣戯画展」は「超渋滞ギガ混み」だったのだ
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           上野の国立博物館に、「鳥獣戯画展」を見に行きました。混んでいるという噂の割にすんなり入場できて、とんだ「銀流し」じゃねえかぃと2階に上がったとたん、とぐろをまく長蛇の列が!平日昼間だというのに・・・
           今回の展示は、京都高山寺の華厳経関連の所蔵品と、「鳥獣戯画」と言われる絵巻、甲乙丙丁4巻すべてが一堂に会したというのが売りです。なかでも、擬人化されたウサギとカエルの絵であまりにも有名な甲巻だけ、入場制限で並ばなくてはならない。ほかの展示を先に見て、17時までに並べば、時間延長して見せてくれるというのです。せっかく来たからと、並ぶこと2時間。室内なので暑くはないけど、足の痛いこと。本を読みながら立ちっぱなしで、めまいがして倒れそうでした。

           室内をぐるぐるめぐる、待ちの順路内のあちこちにはモニターがあって、甲巻の名場面を大写ししている。展示の上にも、拡大複写したパネルが、よく見えるように展示してある。やっとのことで、実物にたどり着いたそれは、あまりにも見慣れたモノクロの墨線で、たしかに見事な筆運びですごいんだけど、もはや見飽きた感じであまり感動がなかった。私個人の感想としては、丁巻の絵師の、さらっと洒脱に抜けた線が何とも好きで、こっちがいちばん気に入ったのです。(写真の絵)
           



           仏像なんかだったら、絶対に本物を見た方がいい。絵画も、絵の大きさ、額や絵の質感、印刷でわからない色見など、やっぱり本物を見た方がいい。ただ、今回の墨線の絵巻は、そこまで本物を見ることにこだわらなくてもいいのかなあと、世間様に叱られそうな感想を持ったのです。
           1階に降りると、もう19時を回っているのに、ミュージアムショップだけは開いていて大賑わいでした。びっくりしたのは、甲巻の名場面を使ったあらゆるグッズがたぶん100種類くらい、飛ぶように売れていました。えらい先生が、鳥獣戯画をマンガの発祥ととらえるのはいかがなものか、もっと高尚な芸術であるみたいなことをのたまわっていましたが、著作権が切れているからって、このグッズの山の方が、よっぽど失礼なんじゃないかって、もう一つ叱られそうな感想を想ったのです。
           ひとつだけお勧めしたいのは、展覧会の図録です。表紙は白の布クロス貼りに、金黒の箔押し。背には花切れも。製本時にとても厄介な、10ページを蛇腹折にした絵巻風ページが4枚。カラーをふんだんに使った350ページ。これで2700円は、普通の出版ではありえない超廉価です。たぶん4分の1以下です。図録だけ買えば、2時間も並んで甲巻を見なくてもよかったのではないかって、またしても、いけない感想を想ってしまったのでありました。
          文責・藤本邦彦


           
          | 美術 | 22:09 | comments(0) | - |
          のんき新聞は、ほんとにのんきだ!
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            「のんき新聞」をご存知ですか?
            発行部数は、公称1200万部と、天下の読売新聞を上回る勢いです・・・というわけにはいかないので、せめてここでご紹介します。
            創刊は、2003年7月なので、今年まるっと10周年です!おめでとうございます!!創刊当初は、月刊をうたっていたのに、つい先日届いた最新号が28号。さすがは「のんき」な新聞ですね。主筆にして、社主のマンガ家、勝川克志氏の創刊挨拶を引用します。
            「このたび、のんき新聞を創刊しました。
            この頃、世の中、危なっかしい法律が次々できてしまったり、奇怪な事件が起きたりと、騒がしく、こころ落ち着かない日々であります。
            そんななか、のんきなものを読んで、少しのんきな時間を、作ろうではないかと、思い立ったのです」
            社主の危惧する通り、昨今は、物騒な法律の成立がさらに拍車がかかってきましたね。最新号のタイトル上の、一行キャッチに、受けました。曰く「ペンは剣よりものんき」。剣のことばかり考えていそうな某首相に、申し上げたい。
             
            A5版8ページながら、細かい字でぎっしり詰まった内容は、かなり濃ゆい。よみごたえ十分です。表1は、勝川克志さんの、カラーイラスト1ページが、ぜいたく。記事は、全国の特派員が、マンガ、映画、本、音楽その他なんでも関心のあるジャンルに、コラムを書いています。マンガ家、編集者、ミュージシャン、書店主、マニアなどなど、多士済々です。東日本大震災後は、6号にわたって、被災地の生の声を掲載してきました。決して、のんきなだけではないのです。わたしのイチオシは、勝川さんのイラストエッセイ「小学時代」です。すべて実話だそうで、もう大爆笑。
             
            購読料は、送料込み130円です!1枚ずつ、プリンター出力して手折、郵送と、どう考えても、絶対割りに合わないと思う価格設定です。だいじょうぶなんでしょうか?数号分まとめて申込みです。
            興味のある方、リンクのページから、勝川克志さんのHP経由で、申し込んでください。
             

            文責・藤本邦彦
            | 美術 | 10:30 | comments(2) | - |
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